災害時にも食べる楽しみを届けたい―。熊野青藍高校木本校舎の普通科2年生69人が、非常食として活用できる缶詰の開発に取り組んでいる。熊野市が進める事業に創造探究学習の一環として参加し、地域食材を生かしたレシピやパッケージデザインを考案。20日には紀伊半島大水害の被災者と食品開発の専門家を講師に迎え、災害時の食の大切さや缶詰製造の基本を学んだ。
この取り組みは災害発生後の避難生活でパンやおにぎりなど同じような食事が続きがちなことから、栄養面だけでなく、食べる喜びや心の安らぎにもつながる非常食を開発しようというもの。生徒たちは10グループに分かれ、商品化を視野にアイデアを練っていく。
この日の講演では、平成23年の紀伊半島大水害で被災した熊野市紀和町小船地区の新宅次郎さんが、自らの体験を語った。台風12号による豪雨で自宅が浸水し、近隣の高齢者とともに裏山へ避難。一晩中激しい雨と雷に耐え、翌朝には自宅の屋根しか見えないほど水位が上がっていたという。
避難先では、被災を免れた住民から白いおにぎりを5個もらった。「あの味は今も忘れられない。これまで食べた中で一番おいしかった」と振り返り、極限状態で口にした食事のありがたさを伝えた。
新宅さんは地区の寺を避難所として住民15~20人が共同生活を送り、全国から駆け付けた学生ボランティアらの支援で復旧が進んだことも紹介。「これまでの経験だけに頼らず、自分や家族の命を守る行動を取ってほしい」と呼びかけた。
続いて、地域食材を使った商品開発を手掛ける「KUMANO BRAND KAZUKU」の大畑和規さん(創作料理「華月」)が缶詰づくりを解説した。
大畑さんは缶詰は密封と加熱殺菌によって長期保存を可能にする食品であることを説明。下処理から缶への充填、脱気、密封、加熱殺菌、製品検査までの工程を紹介し、特にボツリヌス菌などの食中毒を防ぐため、温度や時間を厳密に管理する重要性を強調した。
質疑応答では、生徒から「納豆などの発酵食品は使えるか」「水が限られる災害時には、どんな味付けが適しているか」といった質問が出た。大畑さんは、加熱によって発酵食品の特徴が失われる場合があることや、塩分が多く水分を欲する食品は避難生活に適さない可能性があることなどを語った。
今後は各グループがレシピや商品企画を考案し、生徒同士の投票などを通じて商品化する案を選定。来年2月16日の合同発表会を経て、3月には試作と試食を行い、6月に商品化を検討する缶詰を発表する予定。
市農林水産課の谷川清博さんは「被災者を思う気持ちと、家庭で備蓄する消費者の視点を持ち、自由な発想で取り組んでほしい」と期待を寄せた。完成した商品は、市が計画する「くまのアグリパーク」での販売も視野に入れているという。

