御浜町下市木の曹洞宗林松寺(服部育郎住職)で8日、チベット出身の歌手バイマー・ヤンジンさんによる講演会「日本とチベット 異文化を超えて」が開かれた。林松寺と同寺婦人会が主催し、町内外から約100人が来場し、遠く離れた地に生きる人々の文化や家族のあり方に耳を傾けた。笑いあり涙ありの講演が文化を超え、心を結ぶひとときになっていた。
ヤンジンさんは1994年に来日し、日本で唯一のチベット人歌手としてチベット文化を伝える架け橋として全国で講演や公演を展開。故郷チベットに教育の恩返しとして学校を建設し、奨学金支援などを行っている。林松寺では新型コロナウイルス禍以前から招へいを望んでおり、今回が念願の開催となった。
開演に先立ち、服部住職が「この講演が皆さんの心の栄養になれば」と挨拶。来場者の「タシデレ(こんにちは)」というチベット語の歓迎を受け、ヤンジンさんが登壇した。
講演ではユーモアを交えながら自身の生い立ちやチベットの暮らしを紹介。チベットは日本の約6倍の広さがあり、ヤンジンさんの故郷は飛行機や鉄道もなく、1日1本のバスが唯一の交通手段という厳しい環境にあることを語った。富士山の頂上より高い場所に位置し、冬は氷点下20度にもなるという。心の拠り所であるダライ・ラマ14世が政治的事情で故郷に戻れない現状に触れ、「一番大切な方が故郷にいられないことが、私たちにとって大きな悲しみ」と胸の内を明かした。
過酷な環境の中、大家族が互いに助け合うチベットでの生活。猛勉強し進学したヤンジンさんは大学時代に民族差別を受けつらい思いをした。その中で「チベットは素晴らしいところですね」と声を掛けてくれたのが、後に夫となる日本人男性だった。文化や習慣の違いを乗り越えて結婚に至るまでの道のりは長く厳しいものだった。日本とチベットの文化・習慣の違いは想像を絶するものがあったが、ヤンジンさんはユーモアを交えて話し、会場の笑いと共感を誘った。
また、ヤンジンさんは遊牧を基盤とするチベットの生活や大家族で助け合う文化、一妻多夫という慣習、日本での家族生活を通して感じた価値観の違いを語った。親を大切にする心や、自然や食べ物を敬う気持ちなど、日本人が忘れかけている大切な心を揺り起こした。来場者は「異文化を知ることで、自分たちの暮らしを見つめ直すきっかけになった」と話し、国や文化を超えたメッセージの余韻を噛み締めていた。

