各地で黄金色の稲穂がこうべを垂れ、稲刈りシーズン真っただ中の紀南地方。消費者としては美味しい新米のシーズン到来とあって食欲も刺激されるが、その裏には被害が増す一方の獣害と、その被害を何とか食い止めようと対策に苦心する農家の姿がある。この地域の米どころの1つである御浜町阪本地区で7町歩・約120枚もの田んぼを管理する辻本満哉さん(68)に話を聞いた。
辻本さんが管理する田んぼは網や金網、有刺鉄線、電気柵、ガードレールなど様々なものをつかって柵を設けている。以前、農家らで協力して集落を囲むように柵を設置したが効果は限定的で、ならばと7町歩の内1町歩を厳重に囲ってみた。しかし、収穫期になるとどこかが破られて侵入を許す。その場所には立て杭を打って補強するが、少しすると、また別の場所が破られるという繰り返し。辻本さんは「相手はシカ、サル、イノシシ。シカは何とか防げたが、栄養豊富で大型化したイノシシは防げない。毎日見回りもするが、この頃はクマの恐れもあるので余計に怖い」と肩を落とす。
辻本さんによると原因の一端と思われるのは耕作が放棄された荒れ地。山が近い阪本地区では、田んぼにほど近いこの荒れ地が身を隠す最適な場所となる。もう一つは猟師の減少。これまでは猟師がイノシシなどを山に押し返してくれていたが、その怖さも無くなったイノシシらが〝土足で上がり込む〟ような状況になってしまった。さらに、豚コレラの対策としてイノシシを守り、それによって増えたイノシシが獣害を増やすという悪循環にも陥っているという
辻本さんが管理する田んぼでは昨年、約3分の1が被害に遭い、大きな損害に。「このままではコメを作る人がいなくなる」と危惧する。
対策の要となる周囲の柵は、この暑さで見回りですら大変な状況にあり、修繕はさらに労力が必要で、耕作放棄地の草刈りも個人では限界に。現状では打開策が見つからないが、集落を守るためにも「耕地整理」で効率の良いやり方ができないかと検討を始めている。
辻本さんは「『なんとかせな』と思いながら30年が経ち、作り手もかなり少なくなった。でも、この問題は山間部を中心とした全集落に言えること。どうしようもないが、地区を守るなら田んぼを守らないといけない。田んぼを守るなら獣害を防がないといけない。まずはこうした現状を知ってほしい」と話し、作物だけではなく、地域を守る観点からの獣害対策が喫緊の課題であることを訴えた。

