昭和の暮らしを今に伝え 鑑賞楽しみ郷愁に浸る 熊野古道センター畑中弘生さんの詩画展

 熊野市神川町出身の畑中弘生さん(91)が昭和20~30年代の郷里を描いた詩画作品展「ふるさとの詩が聞こえる詩画展」が6日から、尾鷲市の熊野古道センター展示棟ロビーで始まった。同展は1月18日(日)まで。

 畑中さんは元熊野市役所職員で職員時代に不慮の転落事故で脊髄を損傷。下半身の自由を失い、失意の中で早期退職しながらも前向きに生きることで苦境を乗り越え、生来の趣味である絵と非凡な才能で絵の世界に「生きがい」を見出した畑中さんによる詩画展。これまでに熊野市でも作品展を開いており、昭和の暮らしを今に伝える柔らかなタッチの水彩画と温かみ溢れる詩を添えた詩画は大きな反響を呼んだ。

 今展では62点を展示。カラスウスでの米つきや木材を運ぶ木馬師、北山川での鮎のチョン掛け、麦畑への肥かけ、ウナギの穴釣り、索道のある神川の風景などがズラリと並び、じっくりと鑑賞を楽しみながら郷愁に浸る来場者の姿も見られた。

 6日には熊野市歴史民俗資料館の更屋好年館長によるギャラリートークも開かれ、来場者が詰めかける中、更屋館長が畑中さんの作品の特長や民俗的価値について紹介。民俗学の権威である野本寛一さんによる「戦前戦後の生活史が驚くほど詳細に描かれた畑中さんの作品は貴重な民俗資料。この作品群を資料として出版された熊野市民俗資料館の実践力は多くの資料館に刺激を与え、ひいては社会貢献につながるものと信じている」との言葉や畑中さんの人物像などについても語り、来場者に感銘を与えた。

 同センターでは「詩画作品を通じて、昭和20~30年代の奥熊野の暮らしや風習、自然の豊かさ、そして人々の心のつながりを伝えられれば。作品には、忘れられつつある生活文化や『生きることへの真摯な息吹』が込められており、民俗学的にも貴重な記録となっています。今回、尾鷲市での開催にあたっては、熊野市での好評を受け、奥熊野地域に共通するふるさとの記憶を広く共有し、地域間の文化的つながりを深めることを目的としています。絵と詩が響き合う空間の中で、来場者の皆さまがそれぞれの『ふるさと』に思いを馳せ、懐かしさと生きる力を静かに見つめ直すひとときとなれば幸いです」と多くの鑑賞を呼び掛けている。

 なお、会期中は交流棟案内カウンターで令和元年発行の「ふるさとの詩が聞こえる詩画集」と令和3年発行の「ふるさとの詩が聞こえる詩画集Ⅱ」をいずれも1000円で販売している。

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