環境保全に取り組む非営利団体「コモンフォレストジャパン」による、生物多様性の豊かな森を次世代に残すことを目的とした活動が現在、熊野市五郷町の三ツ口山で行われている。
三ツ口山は同町の故・辻本力太郎元市議が25年ほど前、妻と2人がかりで杉・桧の人工林に代わる広葉樹の山として整備に励み、皆伐後の裸地として石ころだらけの山へ広葉樹を植林。その後、緑あふれる山として蘇り、山アジサイやササユリのほか、ワラビや山椒などの山菜も豊富な里山となって、地元の五郷小児童らが環境学習に足を運んだ。
2023年に辻本さんが不慮の事故で亡くなった後、息子の晋さん(62)が三ツ口山のその後について思案していたところ、縁あってコモンフォレストジャパンが森づくりの遺志を継承。同団体理事で生物多様性の専門家である坂田昌子さんが担当し、力太郎さんの想いを受け継ぎながら2024年4月、第一段階の整備として荒れた山道の石畳化に着手した。
坂田理事によると熊野古道などにも用いられている石畳は「水の流れ」を考慮した伝統的な治水対策なのだという。大小いくつもの石を組み合わせることで山肌を流れてきた水を浸透させ、ゆっくりと川へ排出する。近年の車両通行のみを考えたコンクリート製林道では、水の力によって徐々に道路下がえぐられ、山が崩れて大岩が転がる災害につながることもあるとし、坂田理事は「熊野古道は雨が多いこの地域に適した、非常によくできた構造。森づくりは水の動きを考えることが非常に大切なんです」と指摘する。
そのため、坂田理事による森づくりは石畳づくりからスタート。岩が転がり、荒れ果てた山道に少しずつ石畳の道が姿を見せ始めている。整備予定の山道は山中にある山小屋から約150㍍。斜面が急な50㍍を石畳の階段にし、残る100㍍は石畳の山道にする予定。現在は25㍍ほどの石畳の階段が出来ている。
年間15~20日行われる活動はワークショップとして開かれ、毎回坂田理事の技術を学ぼうと、関東地区などから老若男女が参加。18日に開かれたワークショップにも栃木県など関東を中心に10数人が参加し、指導を仰ぎながら石畳づくりに励んでいた。使用する石はどれも三ツ口山にあるもの。人海戦術で石を運び、形や傾きを見ながら丁寧にはめ込んでいる。
坂田理事は「ここは里山と奥山の連続性がとても良く、山が豊かに水を貯えるというポテンシャルが非常に高い。生物層や草木の豊かさもあり、実際に石畳の整備と並行して生き物が増え、植生の変化も感じられました。日本中の山が壊れていく中、ここが生物多様性の豊かさの拠点となりうる。来るたびに変化があるすごく楽しい山で、地元の方々にもこうした取り組みを知ってもらい、ぜひ参加していただきたい」と話し、辻本さんは「本来、森はみんなのもの。海や川の豊かさにつながり、山菜採りなどみんなが楽しめる森になってほしい」と願いを込めた。
なお、本年度の活動は今回で終了とし、来年度は5月からまたスタートするという。

