熊野市久生屋町の作家、中田重顕さん(昭和17年生まれ)が第7著作集『大正十一年生まれ』を鳥影社から出版した。故郷・奥熊野を舞台にした4編の創作を収録。中田さんは「多分、私の文学の集大成となる本です。読んで頂けるとありがたいです」と話している。244ページ1650円(税込み)で、地元書店はじめ全国大手書店で発売中。
中田さんは旧満州生まれ。戦争を体験した人や遺族らから貴重な歴史の証拠や証言を後世に残そうと活動を続けている。
今回出版した著作集にはタイトルにもなっている『大正十一年生まれ』はじめ『庵納橋』『三枚の絵』、それに2023年に中部ペンクラブ文学賞に輝いた『悪名の女』の4編が含まれる。表紙は中田さんの孫・良原成美さん(17歳)が描いた。文末では小説家・松嶋節さんがそれぞれの読みどころなどを綴っている。
「泣かせの中田」と評される中田さんの文学。今回の著作集も涙腺の緩む作品となっている。中田さんは「4編とも舞台は故郷熊野をイメージしています。小説ですので登場人物はすべて架空の人物ですが、取り入れている歴史的なことは事実に基づいています。4編ともあの戦争で庶民がどのような思いを味わい、何を見たかを根底にしています」と語った。
『大正十一年生まれ』は現在、熊野市の西書店(0597・85・3664)とかたおか書店(0597・85・2386)、新宮市の荒尾成文堂(0735・22・2364)はじめ、ジュンク堂、三省堂、紀伊国屋、丸善など全国大手書店でも発売中。中田さんは収録されている各小説の概要を次の通り紹介している。
▼『庵納橋』=「大逆事件」を横糸にして、権力の迫害の中で凜々しく、深い愛に包まれて生きた人たちを描いています。五郷・飛鳥をイメージしています。
▼『大正十一年生まれ』=母の生まれた年で、アジア太平洋戦争まっただ中で成人になり戦争に巻き込まれていくもっとも不運な時代です。時代の嵐の中で生きる人々。小阪小学校卒業生をイメージしています。
▼『三枚の絵』=奥熊野山中の小さな分校に勤める代用教員の若い男女。男子の美術教師は、貧しい教え子の少女3人を絵にして…。その少女たちの来し方。赤倉分校をイメージしています。
▼『悪名の女』=満蒙開拓団で地獄を見て帰ってきた少女は、深い傷を負って成長し、山小屋の炊事婦をしながら、悪名にさらされつつ懸命に生きる。満州と熊野山中をイメージしています。